なぜ同じ炭素からダイヤモンドと鉛筆の芯ができるのか?同素体のフシギ
私たちの身の回りには、同じ材料からできているのに、全く違う性質を持つものが存在します。その代表例の一つが、宝石として知られる非常に硬いダイヤモンドと、文字を書くために使われる柔らかい鉛筆の芯(グラファイト)です。
これら二つの物質、実はどちらも「炭素」という同じ種類の原子だけでできています。同じ原子からできているのに、なぜこれほどまでに性質が違うのでしょうか? そこには、原子の並び方、つまり「構造」が深く関係しています。
同じ原子でも性質が違うのはなぜ?「同素体」という考え方
ダイヤモンドと鉛筆の芯(グラファイト)のように、同じ元素からできているのに、構造や性質が異なる物質同士を「同素体(どうそたい)」と呼びます。炭素の他にも、酸素(酸素分子O₂とオゾンO₃)や硫黄、リンなどにも同素体が存在します。
物質の性質は、それを構成する原子の種類だけでなく、原子がどのように手をつなぎ、どのような立体的な並び方をしているかによって大きく変わるのです。
ダイヤモンドの構造:強固な結びつき
ダイヤモンドの結晶構造は、非常に強固で安定しています。炭素原子一つが、周りの他の炭素原子と四つの強い結合(共有結合)で結びつき、正四面体の中心に位置するような配置をとります。この四つの結合は、どの方向に対しても同じ強さで均一に広がっています。
この炭素原子同士の強い結びつきが、三次元的に網の目のように緊密に繰り返されることで、ダイヤモンドの巨大な結晶が形成されます。全ての原子が頑丈な結合でガッチリと固定されているため、原子が動く余地がほとんどありません。
例えるなら、全ての部品が溶接でしっかり固定された、非常に頑丈な立体構造物のようなものです。この構造が、ダイヤモンドが地球上で最も硬い天然の物質である理由であり、高い透明度や電気を通しにくい(絶縁体である)性質をもたらしています。
グラファイト(鉛筆の芯)の構造:シート状の弱い結びつき
一方、鉛筆の芯の主成分であるグラファイトも炭素原子だけでできていますが、その構造はダイヤモンドとは全く異なります。
グラファイトの構造は、炭素原子が六角形の網の目を作り、それが何層にも重なったシート状になっています。シートの中の炭素原子同士はダイヤモンドと同じ強い共有結合で結びついていますが、シートとシートの間は「ファンデルワールス力」と呼ばれる比較的弱い力で結びついているだけなのです。
例えるなら、たくさんの紙を重ねたノートのようなものです。紙そのもの(シート内)はしっかりしていますが、紙と紙の間(シート間)は簡単に剥がすことができます。
このシート間の弱い結合のため、グラファイトは層がずれやすく、柔らかく、剥がれやすい性質を持ちます。鉛筆で字が書けるのは、紙の上を滑らせる際にグラファイトのシートが剥がれ落ちるためです。また、シートの中を電子が比較的自由に移動できるため、ダイヤモンドとは異なり電気をよく通す(導体である)性質も持っています。
まとめ
ダイヤモンドと鉛筆の芯が、同じ炭素という「材料」からできているのに、硬さや電気の通りやすさなどの「性質」が全く違うのは、炭素原子同士の「結びつき方」や「並び方」という「構造」が異なるためです。
ダイヤモンドは炭素原子が三次元的に非常に強く結合した構造を持ち、グラファイトは炭素原子がシート状に結合し、シート間が弱い力で結びついた構造を持っています。このわずかな構造の違いが、二つの物質の驚くほど異なる性質を生み出しているのです。
このように、物質の性質は、どんな原子からできているかだけでなく、原子がどのように配置されているかによって大きく左右される。これは、自然界のフシギな一面であり、物質科学の基本的な考え方の一つと言えるでしょう。身近なダイヤモンドと鉛筆の芯を通して、原子レベルの構造が物質の性質を決定する面白さを感じていただけたら幸いです。