自然のフシギ図鑑

なぜ汗をかくと涼しく感じるのか?身近な気化熱のフシギ

Tags: 物理, 気化熱, 汗, 体温調節, 身近な科学, 蒸発

私たちは暑さを感じたり、運動したりすると汗をかきます。そして、その汗が蒸発する時に、体はスーッと涼しくなるのを感じます。どうして、液体である汗が蒸発するだけで、私たちの体が冷えるのでしょうか?ここには、「気化熱」と呼ばれる物理学の原理が関わっています。

汗が蒸発する時に熱が奪われる「気化熱」

物質の状態には、固体、液体、気体の三つがあります。水でいえば、氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)ですね。液体が気体に変化する現象を「気化」といいます。汗が肌の上から空中に消えていくのが、まさにこの気化、特に「蒸発」という現象です。

この気化という変化を起こすためには、エネルギーが必要です。液体の中の分子は互いに引き合っていますが、気体になるためには、この分子間の引力を断ち切ってバラバラになる必要があります。このために使われるエネルギーが、熱の形で供給されるのです。

汗の場合、肌の表面にある汗(液体)が水蒸気(気体)になる際に、私たちの体温という熱エネルギーを吸収します。汗が蒸発して空中に飛び去る時、その汗が持っていた体の熱も一緒に運んでいってしまうイメージです。この、液体が気化する際に周囲から奪う熱のことを「気化熱」と呼びます。

水は非常に気化熱が大きい物質です。つまり、同じ量の汗が蒸発する際に、他の多くの液体よりもたくさんの熱を体から奪うことができるのです。これは、私たちの体が汗をかいて体温を調節する上で、非常に効率的な仕組みと言えます。

身近な気化熱の例

気化熱は、汗による冷却以外にも、私たちの身近な場所で起こっています。

例えば、暑い日に地面に水をまく「打ち水」です。地面にまかれた水が蒸発する際に、地面や周囲の空気から熱を奪うため、ひんやりと涼しく感じられます。

また、アルコール消毒をする際に、肌がスーッと冷たくなるのも気化熱によるものです。アルコールは水よりも蒸発しやすい(気化しやすい)性質があります。そのため、肌につけるとすぐに蒸発し、その際に肌の熱を奪っていくのです。ただし、アルコールの気化熱自体は水ほど大きくないため、肌が冷えるのは一瞬です。

濡れたタオルを干すと乾きますが、この時もタオルから水が蒸発しています。この蒸発の際にも熱が奪われており、乾燥するタオルは周囲の空気の熱を少し奪っています。風が吹くと洗濯物が早く乾きますが、これは風が肌の上の汗やタオルの水分を素早く運び去り、蒸発を促進するため、気化熱による冷却効果が高まるためです。

汗は体温調節の重要な仕組み

このように、汗が蒸発する際の気化熱を利用して体温を下げる仕組みは、私たちが暑い環境でも活動できるようにするための、生物にとって非常に重要な機能です。特に人間は汗腺が多く、この機能が発達しています。

夏に汗をかくのは不快に感じることもありますが、それは体が一生懸命に体温を一定に保とうとしている証拠なのです。次に汗をかいた時は、「あ、今、気化熱で体が冷えているんだな」と、身近な科学のフシギを感じてみるのも面白いかもしれません。