自然のフシギ図鑑

なぜ雲は空に浮かんでいるのか?落ちてこないフシギ

Tags: 雲, 大気, 物理, 気象

空を見上げると、様々な形の雲がぷかぷかと浮かんでいます。その様子を見ていると、「どうしてあんなに大きなものが、地上に落ちてこないのだろう?」と疑問に思ったことはないでしょうか。雲は水や氷の粒子の集まりでできており、私たちの身の回りの空気よりずっと重い物質のはずです。しかし、実際に雲が落ちてくることはありません。

この身近なフシギには、いくつかの科学的な理由が隠されています。今回は、雲が空に浮かび続ける理由について、分かりやすく解説いたします。

雲の正体は小さな水の粒や氷の粒

まず、雲が何でできているかを確認しましょう。雲は水蒸気が冷やされてできた、非常に小さな水の粒(水滴)や氷の粒(氷晶)が集まったものです。これらの粒子の大きさは、およそ数マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)から数十マイクロメートル程度と、非常に小さいものです。

個々の水滴や氷晶は、確かに周りの空気よりも重い物質です。数百万、数千万、あるいはそれ以上の数の粒が集まって雲という目に見える塊になっていますから、雲全体としてはかなりの重さになるはずです。それでもなぜ、それらが地上に落下してこないのでしょうか。

粒子の小ささが空気抵抗を生む

雲を構成する水滴や氷晶が落ちてこない理由の一つは、その「小ささ」にあります。たとえ同じ重さのものでも、形や大きさが違えば、空気中を落下する速度は異なります。例えば、小さな鉄球と、広げた紙を同時に落とすと、紙の方がずっとゆっくり落ちます。これは、紙の方が面積が大きく、空気から受ける抵抗(空気抵抗)が大きいからです。

雲を構成する水滴や氷晶は非常に小さいため、その質量に対して表面積の割合が大きくなります。このため、落下しようとする力(重力)に対して、空気抵抗が非常に大きく働くのです。例えるなら、羽毛がゆっくり落ちるのに似ています。個々の粒子は重力で落下しようとしますが、その速度は空気抵抗によって極めて遅くなります。

上昇気流が小さな粒子を支える

雲が空に浮かび続けるもう一つの、そしてより重要な理由は、「上昇気流」の存在です。地球の大気は常に流動しており、特に地面付近で暖められた空気は軽くなって上昇します。他にも、山の斜面に沿って空気が吹き上げられたり、異なる性質の空気の塊(気団)がぶつかり合ったりする場所でも上昇気流が発生します。

この上昇気流は、地上から上空に向かう空気の流れです。雲を構成する非常に小さな水滴や氷晶は、空気抵抗が大きいため、この上昇気流に容易に乗せられてしまいます。もし水滴や氷晶が重力によってわずかに落下しようとしても、それを上回る、あるいは釣り合う程度の上昇気流があれば、結果として雲は同じ高さに留まったり、さらに高い場所へ運ばれたりするのです。

たとえ弱い上昇気流であっても、粒子の落下速度が極めて遅いため、十分に浮かせ続けることができるのです。まるで、軽いホコリがわずかな風で舞い上がるのに似ています。

雲が落ちてくるときは?

では、雨や雪はなぜ降ってくるのでしょうか。雨や雪は、雲の中の水滴や氷晶がさらに成長し、周囲の他の粒子と衝突・合体して大きくなったものです。ある程度まで大きくなると、その重さが空気抵抗や上昇気流の力を上回り、地上へ落下してくるのです。つまり、雨や雪として降ってくる水滴や氷晶は、雲を浮かせていた粒子が「成長したもの」と言えます。

まとめ

雲が空に浮かんでいるのは、空気より重い水滴や氷晶でできているにもかかわらず、以下の二つの理由によります。

  1. 粒子の小ささによる大きな空気抵抗: 雲の粒は非常に小さいため、落下しようとする力に対して空気から受ける抵抗が大きく、落下速度が極めて遅くなります。
  2. 上昇気流の存在: 地面からの暖められた空気や地形、気象条件などによって発生する上昇気流が、空気抵抗によって落下速度が遅くなった粒子を上空へと押し上げます。

このように、身近な存在である雲が空に浮かび続ける現象にも、粒子の性質や大気の運動といった科学の原理が深く関わっています。次に空を見上げる際は、小さな水の粒と空気の流れが織りなす自然のフシギを感じてみてはいかがでしょうか。