自然のフシギ図鑑

なぜ植物は重力に逆らって水を運べるのか?毛細管現象と蒸散の科学

Tags: 植物, 水, 毛細管現象, 蒸散, 自然科学

私たちの身の回りには、小さな草から数十メートルにもなる大きな木まで、様々な植物が存在しています。これらの植物は、根から水分や栄養を吸収し、それを茎や葉の先端まで運んでいます。特に高い木の場合、根は地面にありますが、葉は遥か上空にあります。水が重力に逆らって、どのようにしてそんな高い場所まで運ばれているのでしょうか。

水道のポンプのように何か特別な仕掛けがあるわけでもないのに、植物は当たり前のように水を吸い上げています。これは、植物の体の中で複数の物理的・生物学的な力が連携して働くことで実現している、まさに自然のフシギの一つです。その仕組みを紐解いていきましょう。

植物が水を吸い上げる二つの主要な力

植物が水を吸い上げる仕組みには、主に「毛細管現象」と「蒸散」という二つの重要な働きが関わっています。どちらも、私たちの身近な現象と関連付けて理解することができます。

1. 毛細管現象:細い管を水がのぼるフシギな力

毛細管現象とは、非常に細い管(毛細管)の中を、液体が重力に逆らって自然に上昇したり、下降したりする現象です。植物の茎の中には、「道管(どうかん)」と呼ばれる非常に細い管がたくさん通っています。この道管が、まさに毛細管として機能しているのです。

では、なぜ毛細管の中を液体がのぼるのでしょうか。そこには、水の二つの性質が関係しています。

毛細管のように細い管に水が入ると、まず水の付着力によって管の壁に沿って水面が少し引き上げられます。すると、その引き上げられた水分子に引っ張られるように、周りの水分子が凝集力によってついてきて、水面がさらに上昇します。この付着力と凝集力の相互作用によって、細い管の中を水がどんどん上へと引き上げられていくのです。

この現象は、例えば、細いストローの端を水につけると水面が少し上がる、インクが半紙に吸い込まれていく、タオルが水を吸い上げる、といった身近なところでも見られます。植物の道管は直径が数十マイクロメートル(1ミリメートルの数十分の一)と非常に細いため、毛細管現象による水の引き上げ効果が大きく働きます。これにより、根から吸い上げられた水は、ある程度の高さまで持ち上げられるのです。

2. 蒸散:葉からの水の放出が水を引っ張り上げる

毛細管現象だけでは、特に数十メートルもあるような高い木の場合、葉の先端まで水を運ぶことは難しいです。ここで重要な役割を果たすのが「蒸散(じょうさん)」と呼ばれる現象です。

蒸散とは、植物の葉の表面にある「気孔(きこう)」という小さな穴から、植物体内の水が水蒸気となって大気中に放出される現象です。植物は、根から吸い上げた水の大部分(99%以上とも言われます)を、この蒸散によって放出しています。

水が葉から蒸発して出ていくと、葉の細胞内の水の量が減ります。すると、その細胞は隣の細胞から水を引っ張ります。さらにその隣の細胞も、というように、水は葉から茎、そして根の方へと連鎖的に引っ張られていきます。これは、水分子が強い凝集力によって互いにしっかりと繋がり合っているため、ちょうど鎖のように、上の水が引っ張られると下の水も一緒についてくるようなイメージです。

この「水の鎖」が、葉からの蒸散というポンプによって引っ張り上げられることで、根から吸い上げられた水は、重力に逆らって植物全体を上昇し、葉の隅々まで供給されるのです。この引っ張りによって道管の中には「負圧(ふあつ)」、つまりマイナスの圧力が生じますが、水分子間の強い凝集力のおかげで水の柱は途切れることなく維持されます。

毛細管現象と蒸散の連携

結局のところ、植物が高い場所まで水を運べるのは、根の近くである程度水を持ち上げる毛細管現象と、葉から水を放出することで全体の水を引っ張り上げる蒸散という、二つの力が絶妙に連携しているからなのです。根から吸い上げられた水は、まず毛細管現象によって少し持ち上げられ、その後、葉の蒸散によって生じる強い引っ張る力(蒸散流と呼ばれます)によって、まるで吸い上げられるように上へと運ばれていきます。

光合成のために必要な二酸化炭素を取り込むために葉にある気孔を開けると、どうしても水分が蒸散してしまいます。植物は、一見すると「水を無駄遣いしている」ようにも見えますが、実はこの蒸散というプロセスこそが、重力に打ち勝って水を運ぶための重要な駆動力となっているのです。

まとめ

植物が重力に逆らって水を運ぶ仕組みは、毛細管現象による水の付着力と凝集力による上昇力、そして葉からの蒸散によって生じる引っ張る力の組み合わせによって成り立っています。これは、物理学的な現象である毛細管現象と、植物の生命活動である蒸散が巧みに連携した、自然界の驚くべき仕組みです。

何気なく見ている身近な植物にも、私たちの想像を超える精緻で合理的なシステムが備わっていることを知ると、科学に対する興味が深まるのではないでしょうか。