自然のフシギ図鑑

なぜ塩を振ると野菜から水が出るのか?身近な浸透圧のフシギ

Tags: 化学, 生物, 浸透圧, 植物, 身近な科学

私たちの身近なキッチンで起こる現象の中に、実は奥深い科学が隠されていることがあります。その一つが、「野菜に塩を振ると、しばらくすると野菜から水が出てくる」という現象です。

きゅうりやキャベツなどを塩もみしたり、浅漬けを作ったりする際に経験するこの現象は、料理の下ごしらえとして広く行われています。では、なぜ塩を振るだけで、野菜の中にあった水分が出てくるのでしょうか?

塩が野菜から水を「引き出す」科学:浸透圧

この現象の鍵を握るのが、「浸透圧(しんとうあつ)」と呼ばれる科学的な仕組みです。浸透圧は、物理学や化学、そして生物学にまたがる非常に重要な概念で、私たちの体の中でも、植物の中でも常に働いています。

分かりやすく説明するために、少し想像してみてください。

真水が入った容器と、濃い塩水が入った容器があります。この二つを、水は通すけれど塩分は通さない特別な膜(これを「半透膜(はんとうまく)」と呼びます)で隔てたとします。

時間が経つと、どうなるでしょうか?

不思議なことに、真水側の水分が、半透膜を通って塩水側へと移動していくのです。これは、水分子は常に動き回っており、半透膜の両側を行き来できるのですが、濃度が薄い側(真水側)の方が、単位体積あたりに存在する水分子の割合が多いため、結果として濃い側へ移動する量が多くなるからです。この水が移動しようとする力を「浸透圧」と呼びます。そして、この水が移動する現象そのものを「浸透(しんとう)」と呼びます。

野菜の細胞と浸透圧

さて、この浸透圧の仕組みが、野菜と塩の関係でどのように働いているのかを見ていきましょう。

野菜は、小さな部屋のような「細胞」がたくさん集まってできています。それぞれの細胞は、細胞膜という薄い膜に囲まれています。この細胞膜が、先ほど説明した「半透膜」のような働きをします。つまり、水は比較的自由に通り抜けることができますが、塩の成分(厳密にはナトリウムイオンや塩化物イオンなど)は簡単には通り抜けられません。

野菜の中に含まれる水分は、細胞の中にあります。この細胞液は、ある程度の濃度を持っていますが、外部に塩を振る前の濃度は、細胞の外の環境の濃度と比較的近い状態にあります。

しかし、野菜の表面に塩を振るとどうなるでしょう。

野菜の細胞の外側、表面付近の濃度が、一気に高くなります。すると、細胞の中の水分は、濃度が高い細胞の外側へ移動しようとします。細胞膜(半透膜)を通って、細胞の中から外へと水が出ていくのです。この水が集まって、野菜の表面に水滴となって現れたり、容器の底に溜まったりする、というわけです。

身近な浸透圧の例

浸透圧は、野菜に塩を振る以外にも、様々な場所で見られます。

まとめ

野菜に塩を振ると水が出てくるのは、野菜の細胞膜が半透膜のように働き、細胞内の水分が、塩によって濃度が高くなった細胞外へと移動する「浸透圧」という現象によるものです。

このように、料理の下ごしらえや自然界の現象、さらには私たちの体の中でさえ、当たり前のように起こっていることの背景には、シンプルながらも確かな科学の法則が息づいています。身近な「なぜ?」を科学的に考えてみると、普段見慣れた景色も少し違って見えてくるかもしれません。