塩水が真水より凍りにくいのはなぜ?身近な凝固点降下の科学
私たちが日常で水を使う際、真水と塩水にはいくつかの違いがあることに気づくことがあります。その一つが、凍る温度の違いです。たとえば、海の水は私たちが使う水道水よりも低い温度でなければ凍りません。冬場の道路で凍結防止剤として塩が撒かれるのも、この現象を利用しています。
では、なぜ塩水は真水よりも凍りにくいのでしょうか。この身近な疑問には、「凝固点降下」という科学的な現象が関わっています。
凝固点降下とは?
凝固点降下とは、純粋な液体(この場合は真水)に別の物質(この場合は塩)が溶けると、その液体の凝固点(凍り始める温度)が純粋な液体の場合よりも低くなる現象のことです。
真水の凝固点は通常0℃ですが、塩が溶けた塩水では、塩の濃度に応じて0℃よりも低い温度でなければ凍りません。例えば、海水は塩分濃度がおよそ3.5%ですが、その凝固点はマイナス1.8℃程度と言われています。さらに塩分濃度が高くなると、凝固点はさらに下がります。
なぜ不純物が溶けると凝固点が下がるのか?
凝固点降下のメカニズムを理解するためには、まず水が凍る仕組みを考えてみます。水が凍るというのは、液体である水分子が規則正しく並んで固体(氷)の結晶を作るプロセスです。これは、水分子が一定の秩序を持って並ぶ方が、バラバラに動き回るよりもエネルギー的に安定な状態になるからです。
しかし、水の中に塩のような別の物質(溶質)が溶けている場合、溶質である塩化物イオン(Na⁺とCl⁻)やその他の不純物が水分子の間に存在します。これらの溶質粒子は、水分子が規則正しい結晶構造(氷)を作ろうとするのを邪魔します。
例えるなら、綺麗な積み木を積み上げようとしているところに、形の違うおもちゃ(溶質粒子)が紛れ込んでいるようなものです。おもちゃがあると、積み木(水分子)をスムーズに、そして隙間なく積み上げるのが難しくなります。
水が氷になるためには、水分子がこの溶質粒子の干渉を乗り越えて、無理やり秩序だった結晶構造を形成する必要があります。これには、より低いエネルギー状態、つまりより低い温度が必要になります。温度が低ければ低いほど、水分子の動きは鈍くなり、溶質粒子の邪魔を振り切って結合しやすくなるためです。
したがって、溶質が存在することで、純粋な水よりも多くのエネルギー(またはより低い温度)が必要となり、結果として凝固点、つまり凍り始める温度が下がるのです。
溶けている不純物の量(濃度)が多いほど、水分子が結晶を作るのを邪魔する粒子の数も増えます。そのため、凝固点降下の度合いは溶けている溶質の濃度に比例する傾向があります。
日常生活での凝固点降下
この凝固点降下の現象は、私たちの身の回りで様々に利用されています。
- 冬場の道路の凍結防止: 雪が降ったり気温が氷点下になったりすると、道路が凍結して危険になります。そこで、塩化ナトリウム(食塩の主成分)や塩化カルシウムなどの凍結防止剤が撒かれます。これらの物質が雪や路面の水に溶けることで、水の凝固点が下がり、0℃以下になっても凍りにくくなります。
- 寒冷地での不凍液: 自動車のラジエーター液や、寒冷地で使用される様々な液体の凍結を防ぐために、不凍液が使用されます。これも凝固点降下を利用しており、エチレングリコールなどの物質が水の凝固点を大幅に下げます。
- アイスクリーム作り: 手軽にアイスクリームを作る際に、ボウルに入れた材料の周りに、氷と塩を混ぜたものを用意することがあります。塩を混ぜた氷は、溶ける際に周りから熱を奪いますが、さらに塩が溶けることで凝固点が下がり、0℃以下の低温状態を保つことができます。この低温が、中のアイスクリームミックスを素早く冷やし固めるのに役立ちます。
まとめ
塩水が真水より凍りにくいのは、「凝固点降下」という科学現象によるものです。水に塩のような不純物が溶けることで、水分子が規則正しく並んで氷の結晶を作るのが妨げられ、より低い温度でなければ凍結が起こらなくなります。
この凝固点降下は、冬の道路凍結防止や寒冷地での不凍液など、私たちの安全や生活を支える技術にも応用されている身近な科学なのです。普段何気なく目にしている現象の裏にも、面白い科学の原理が隠されていることがわかります。