自然のフシギ図鑑

なぜ鉄でできた船は沈まない?浮力の科学

Tags: 浮力, アルキメデスの原理, 物理, 船, 水の性質

鉄の塊が水に浮くフシギ

私たちの身の回りにある多くのものは、鉄のように水より重い物質でできています。小さな鉄くぎを水に入れると、すぐに底に沈んでしまいます。それなのに、数万トンもの鉄鋼を使って作られた巨大な船が、なぜ水にぷかぷかと浮いているのでしょうか。

この一見すると不思議な現象には、「浮力」という科学の原理が深く関わっています。今回は、この浮力の秘密を解き明かし、なぜ重たい鉄の船が沈まずに海を渡ることができるのかを分かりやすく解説していきます。

物体が水に浮くか沈むかを決めるもの

物体が水に浮くか沈むかは、単純にその物体自体の重さだけで決まるわけではありません。重要なのは、物体の重さと、その物体が押しのけた水の重さを比較することです。ここで登場するのが、古代ギリシャの科学者アルキメデスが発見したとされる原理です。

アルキメデスの原理は、「物体が流体(水や空気など)中に浸かるとき、その物体には、物体が押しのけた流体の重さに等しい上向きの力が働く」というものです。この上向きの力を「浮力」と呼びます。

つまり、物体に働く浮力が物体の重さよりも大きければ物体は浮き、小さければ沈み、等しければ物体はその場で静止する(漂う)ということになります。

船に働く浮力の正体

では、鉄でできた船に働く浮力はどのように生まれるのでしょうか。

鉄の密度(単位体積あたりの重さ)は水の密度の約8倍もあります。だから鉄くぎは沈みます。しかし、船は鉄の塊ではありません。船体は鉄板を加工して、底が大きくくぼんだ箱のような形をしています。船の中には、船室や貨物スペースなど、たくさんの「空間」があり、その空間は空気で満たされています。

船全体で考えると、鉄の重さに加えて、船体内の空気の重さ、さらには船が積んでいる貨物や乗組員の重さなどが加わります。そして、船が水に浮かぶとき、船体の一部が水中に沈み込み、その部分の体積と同じ体積の水を船は「押しのけて」います。

この「押しのけた水」の重さが、船全体の重さと釣り合ったときに、船は水面に浮かんで静止します。

たとえるなら、同じ重さでも、粘土を丸めたら水に沈みますが、粘土をお椀型にしたら水に浮きます。これは、お椀型にすることで、同じ重さの粘土でも水に触れる体積が大きくなり、より多くの水を押し分けられるようになるためです。船もこれと同じ原理で、大きな体積を持つことで、船全体の重さを支えるのに十分な大きな浮力を得ているのです。

船が沈むとき

船が浮いているのは、押しのけた水の重さ(浮力)と船全体の重さが釣り合っているからです。では、船が沈んでしまうのはどのような時でしょうか。

一つは、船が積める荷物の限界(積載量)を超えて荷物を積みすぎた場合です。船全体の重さが増し、船が水中に深く沈んでも、押しのけられる水の量には限界があります。押しのけた水の重さが船全体の重さよりも小さくなると、浮力が足りなくなり、船は沈んでしまいます。

また、船体に穴が開くなどして内部に水が入り込んでしまうと、船が押しのけることができる水の体積は同じでも、船自体の重さが水の分だけ増えてしまいます。結果として船全体の重さが浮力を上回り、沈んでしまうことになります。

まとめ

重たい鉄でできた船が水に浮くのは、船が大きな体積を持ち、その大きな体積によって船全体の重さと同じだけの重さの水を「押しのける」ことができるからです。この押しのけた水の重さこそが「浮力」であり、この浮力が船全体の重さと釣り合うことで、船は水面に浮かぶことができるのです。これはアルキメデスの原理に基づいた、自然のフシギの一つと言えるでしょう。

身近な船の航行には、このような物理の原理が深く関わっています。次に船を見かけた際には、目に見えない浮力という力が船を支えている様子を想像してみるのも面白いかもしれません。