なぜ水と油は混ざらないのか？混ざらない分子のフシギ
私たちの身の回りには、水と油が一緒にあっても決して混じり合わないという現象がよく見られます。たとえば、フレンチドレッシングのように、時間が経つと二層に分かれてしまう液体を目にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。サラダ油と水をコップに入れてかき混ぜても、すぐに分離してしまいます。
一体なぜ、水と油は仲良く混ざり合うことができないのでしょうか。この身近なフシギには、それぞれの物質を構成する「分子」の性質が深く関係しています。
水と油、それぞれの分子のカタチ
すべての物質は、目に見えない小さな粒である「分子」が集まってできています。水はたくさんの水分子が集まったものであり、油（サラダ油など）もたくさんの油分子が集まったものです。
水分子は、酸素原子1つと水素原子2つが結びついてできています。この水分子は、電気的な性質に偏りがあります。酸素原子の側がわずかにマイナス、水素原子の側がわずかにプラスの電気を帯びています。ちょうど小さな磁石のように、プラスとマイナスの極を持っているイメージです。このような電気的な偏りを持つ分子のことを、「極性分子」と呼びます。水は代表的な極性分子です。
一方、サラダ油の主成分である油分子（トリグリセリドなど）は、炭素原子と水素原子が主に結びついてできています。これらの原子の電気的な偏りは非常に小さく、分子全体で見ると電気的な偏りがほとんどありません。このような分子を「無極性分子」と呼びます。油は代表的な無極性分子です。
なぜ極性分子と無極性分子は混ざらないのか？
水分子のような極性分子は、お互いのプラスの極とマイナスの極が引き合う性質があります。これは、磁石のS極とN極が引き合うのと同じようなものです。たくさんの水分子が集まると、お互いに強く引き合い、集まってまとまろうとします。
一方、油分子のような無極性分子は、お互いの間に働く電気的な引力が極性分子に比べて非常に弱いのが特徴です。油分子同士は、比較的自由に動き回っています。
さて、水と油を混ぜようとするとどうなるでしょうか。水分子は極性を持っているため、自分たちと同じように極性を持つ水分子同士で強く引き合います。油分子は無極性なので、水分子のような強い電気的な引き合いを持っていません。水分子は「自分たちと性質が似ているもの（＝水分子）同士で集まろう」という性質が非常に強いため、油分子を「仲間外れ」にして、油分子の隙間に入り込もうとしないのです。
例えるならば、水分子は「極性クラブ」のメンバーで、クラブのメンバー同士で固まってしまう習性がある、とイメージしてみてください。油分子は「無極性グループ」ですが、特に強く固まる習性はありません。「極性クラブ」は他のメンバー（＝水分子）との結びつきが強いため、「無極性グループ」のメンバー（＝油分子）が間に入ってこようとしても、それを押しのけて自分たち同士で集まってしまいます。結果として、水分子の集まりと油分子の集まりが分かれてしまい、混ざり合わない層を作るのです。
化学の世界では、「似たものは似たものを溶かす（Like dissolves like）」という言葉があります。これは、極性分子は極性分子と混ざりやすく、無極性分子は無極性分子と混ざりやすいという性質を表しています。水（極性）と油（無極性）は性質が似ていないため、混ざりにくい、ということになります。
ちょっと補足：界面活性剤の働き
洗剤や石鹸、マヨネーズなどを作る際に使われる卵黄などに含まれる物質の中には、「界面活性剤」と呼ばれるものがあります。この界面活性剤の分子は、水と仲良くできる「親水基（極性を持つ部分）」と、油と仲良くできる「親油基（無極性を持つ部分）」の両方を持っています。
界面活性剤は、この二つの異なる性質を持つ部分を使い分け、水分子と油分子の間を取り持つことができます。これにより、本来混ざり合わない水と油を、一時的にでも安定して混ざり合った状態（乳化といいます）にすることができるのです。
まとめ
水と油が混ざらないのは、それぞれの分子が持つ電気的な性質（極性があるかないか）が異なるためです。極性を持つ水分子は互いに強く引き合い、無極性を持つ油分子とは混ざり合おうとしません。この分子レベルでの性質の違いが、身近なところで水と油が二層に分かれるという現象を引き起こしているのです。
ドレッシングを振るたびに、目に見えない小さな分子たちの振る舞いを少しだけ思い出していただけたら、水と油のフシギがより面白く感じられるかもしれません。