なぜロウソクの炎はまっすぐ上に伸びるのか?
ロウソクの炎が示す「上へ」のフシギ
ロウソクに火をつけ、しばらく眺めていると、炎がゆらゆらと揺れながらも、常にまっすぐと上に伸びていることに気づきます。まるで意思を持っているかのようにも見えますが、もちろんそうではありません。これは私たちの身の回りに常に存在している、ある物理現象が大きく関わっています。
なぜ、ロウソクの炎は決して下向きに燃えず、横に広がらず、まっすぐに上を目指すのでしょうか?そこに隠された自然のフシギを解き明かしていきましょう。
炎の正体と燃焼のプロセス
まず、ロウソクの炎が何であるかを知ることから始めましょう。炎は「燃えている物質」そのものではなく、燃焼によって発生した非常に高温の気体や、燃えきらなかった微細なスス(炭素の粒)などが光を放っている状態です。
ロウソクが燃えるとき、芯の先にあるロウが熱で溶けて液体になり、それが毛細管現象(植物が水を吸い上げるのと同じ原理です)によって芯を伝わって上昇します。芯の先で液体になったロウは、さらに熱せられて蒸発し、気体(ロウ蒸気)になります。このロウ蒸気が空気中の酸素と結びついて化学反応を起こし、光や熱を出しながら燃焼するのです。これがロウソクの炎の仕組みです。
炎を「上向き」に導く力:熱対流
では、なぜこの炎が上向きに伸びるのでしょうか。その鍵を握っているのが、「熱対流」という現象です。
ロウソクの炎は非常に高温です。この炎の周りの空気は、熱せられることで温度が高くなります。空気は温度が上がると、その密度(ある体積あたりに含まれる物質の量)が小さくなります。例えるなら、満員電車が少し空いたような状態です。
密度が小さくなった温かい空気は、周囲の冷たい空気よりも軽くなります。重いものが下に沈み、軽いものが上に浮かぶように、軽くなった温かい空気は自然と上昇を始めます。
炎の周りでは、常に炎によって温められた空気が軽くなって上昇し続けています。そして、上昇した温かい空気の代わりに、周囲の冷たい空気が下から炎に向かって流れ込んできます。この「温かい空気が上昇し、冷たい空気が流れ込む」という空気の循環が生まれます。これが熱対流です。
ロウソクの炎は、この下から吹き上げる冷たい空気の流れに乗せられ、さらにその流れによって供給される新鮮な酸素を受け取りながら、熱対流の向き、つまり上向きに伸びていくのです。
身近な熱対流の例
熱対流は、ロウソクの炎だけでなく、私たちの日常生活や自然界の様々な場所で見られます。
- 暖房: エアコンやストーブで温められた空気は部屋の上の方に溜まりやすく、冷たい空気は床の方に留まりやすいのも対流の一例です。
- お風呂: 沸かしたお湯が浴槽の下から上に温まっていくのも対流です。
- 積乱雲: 地上で温められた空気が上昇し、上空で冷やされて水滴や氷の粒になることで生まれます。
このように、温度差によって空気や水などが循環する現象が熱対流であり、ロウソクの炎を上向きにする力そのものです。
ロウソクの炎がゆらゆら揺れる理由
炎がまっすぐ上に伸びるとはいえ、実際には常にゆらゆらと揺れています。これは、熱対流による空気の流れが一定ではなく、常に少しずつ乱れているためです。周りの空気の動きや、炎自体の燃焼の微妙な変化などが影響し合い、炎の形を揺らしているのです。
宇宙空間での炎は?
ちなみに、もしロウソクを重力のほとんどない宇宙空間で燃やしたらどうなるでしょうか?地球上のような重力がなければ、温められた空気が軽くなることによる「上昇」が起こりません。つまり、熱対流が発生しないのです。その結果、炎は対流によって引き伸ばされることなく、酸素がある限り、丸い球状の炎になると考えられています。実際に宇宙ステーションで行われた実験でも、ロウソクの炎は丸くなることが確認されています。
まとめ
ロウソクの炎がまっすぐ上に伸びるフシギは、高温によって軽くなった空気が上昇し、その流れに乗って炎が引き上げられる「熱対流」という物理現象によって説明できます。身近なロウソクの炎一つにも、地球の重力や空気の性質が生み出す興味深い科学の原理が隠されているのですね。日常のふとした疑問に目を向けてみると、私たちの周りにはたくさんの「なぜ?」と、それを解き明かす科学の面白さがあることに気づかされます。