自然のフシギ図鑑

なぜ花火は様々な色になるのか?夜空を彩る科学

Tags: 花火, 炎色反応, 化学, 光, 自然科学

夜空を見上げるたび、心を奪われる花火の色

夏の夜空に打ち上げられる色とりどりの花火。赤、青、緑、黄、紫と、まるで絵の具を撒いたかのように鮮やかな光が、暗闇にぱっと咲いては消えていきます。そのあまりの美しさに、私たちはいつも見とれてしまいます。

でも、ふと疑問に思ったことはないでしょうか。どうして、あんなにもたくさんの色を、空中で作り出すことができるのだろうかと。紙でもなく、ペンキでもなく、一瞬で現れて消えるあの光の色には、一体どんな秘密が隠されているのでしょうか。

この夜空を彩る花火の色の秘密は、実は「科学」にあります。特に、物質が熱せられたときに示すある特別な性質が深く関わっているのです。

色の秘密は「炎色反応」にあり

花火の色を生み出している最大の要因は、「炎色反応」と呼ばれる現象です。炎色反応とは、特定の金属の化合物を炎の中で熱すると、その金属の種類ごとに固有の色の光を出す現象のことです。

例えば、理科の実験で食塩(塩化ナトリウム)をガスバーナーの炎に入れると、炎が黄色っぽく変わるのを見たことがあるかもしれません。これは、食塩に含まれるナトリウムという金属が炎色反応を起こして、黄色い光を出しているためです。

なぜ金属の種類によって出す光の色が決まっているのでしょうか。物質は原子からできており、原子の中心には原子核があり、その周りを電子が回っています。この電子は、決まった軌道(エネルギーのレベル)しか回ることができません。物質を熱すると、電子はより高いエネルギーの軌道へと移動します。しかし、電子は不安定な高いエネルギー状態にとどまることができず、すぐに元の低いエネルギーの軌道に戻ろうとします。このとき、高いエネルギーから低いエネルギーへと移る際に余ったエネルギーを光として放出するのです。

重要なのは、どの軌道からどの軌道へ電子が移動するか、つまり放出されるエネルギーの量が、原子の種類(金属の種類)によって異なるということです。放出されるエネルギーの量が違えば、光の色も変わってきます。これが、金属の種類ごとに固有の色が出る炎色反応の原理です。

花火で使われる金属と色

花火師たちは、この炎色反応の原理を利用して、様々な色の花火を作り出しています。花火玉の中には、「星(ほし)」と呼ばれる、色を出すための火薬の粒が入っています。この星に、目的の色を出すための金属の化合物が混ぜられているのです。

具体的に、どのような金属がどのような色を生み出すのでしょうか。代表的な例をいくつかご紹介しましょう。

これらの金属化合物が火薬と共に燃焼することで、それぞれの金属固有の色の光が放出され、美しい花火の色として私たちの目に映るのです。

花火玉の中に詰め込まれた工夫

花火玉の中には、ただ火薬と色の素が入っているだけではありません。目的の高さで正確に開くための打ち上げ火薬、玉が開くための割薬、そして色とりどりの「星」が、それぞれ計算された配置と量で詰め込まれています。

一つの花火が時間差で色を変えたり、複数の色が混ざり合って見えたりするのは、これらの「星」に時間差で火がつくような仕掛けや、色の違う星が複数入っているためです。まるで小さな宇宙が、花火玉の中に凝縮されているかのようです。

まとめ:科学が織りなす夜空のアート

夜空を彩る花火の色は、私たちが普段意識することのない、物質のミクロな世界での振る舞い、すなわち炎色反応という科学の原理によって生み出されています。特定の金属が持つ固有の性質が、熱というエネルギーを得て、特定の色の光を放出する。この自然のフシギを巧みに利用することで、あのような芸術的な光景が作り出されているのです。

次に花火を見る機会があったら、その一つ一つの色の輝きに、物質が放つ光のメッセージを感じ取ってみてください。きっと、これまでとは違った科学的な視点からも、花火を楽しむことができるはずです。花火は、科学と芸術、そしてそれを実現する職人の技が融合した、まさに夜空のアートと言えるでしょう。