自然のフシギ図鑑

湿気が多いと蒸し暑いのはなぜ? 気化熱と湿度のフシギ

Tags: 湿度, 気化熱, 体温調節, 気象, 物理

夏の盛りになると、気温はそれほど高くなくても、なんとなく体がベタつき、じっとりと汗をかいて不快に感じることがあります。これが「蒸し暑い」という感覚です。同じ気温でも、カラッと晴れた日と湿度が高い日では、体感温度がまったく異なります。この「蒸し暑さ」は、一体なぜ起こるのでしょうか? そこには、私たちの体の仕組みと空気中の「湿度」が深く関わっています。

体はどのようにして熱を冷やしているのか?

私たちの体は、常に約36℃から37℃の一定の体温を保つようにできています。運動したり、外気温が高かったりすると体内で熱が発生したり、外部から熱が伝わってきたりするため、体温が上がりすぎないように熱を外に逃がす必要があります。

体から熱を逃がす主な方法の一つが「汗」です。皮膚から汗をかき、その汗が蒸発する際に、体の表面から熱を奪うことで体温を下げています。この、液体が気体になる際に周囲から熱を奪う現象を「気化熱(きかねつ)」と呼びます。

例えば、夏の暑い日に打ち水をすると涼しく感じたり、アルコール消毒液を手にスプレーするとひんやりしたりするのは、液体(水やアルコール)が蒸発するときに周囲の熱を奪う、この気化熱の働きによるものです。

湿度が高いと汗が蒸発しにくいのはなぜか?

さて、私たちの体は汗をかくことで気化熱を利用して体温調節をしているわけですが、この汗の「蒸発」には、空気中の「湿度」が大きく影響します。

空気中には、目には見えませんが、常に水蒸気が含まれています。この水蒸気の量を表すのが湿度です。空気は、その温度によって含むことのできる水蒸気の量に限界があります。この限界まで水蒸気を含んだ状態を「飽和(ほうわ)」と呼び、その時の水蒸気量を「飽和水蒸気量(ほうわすいじょうきりょう)」といいます。

湿度が高い状態というのは、空気中の水蒸気量が、その温度での飽和水蒸気量に近づいていることを意味します。例えるなら、既にたくさんの水が溶けているコップに、さらに水を溶かそうとしても溶けにくい、といった状態です。

私たちの体から出た汗が蒸発するということは、汗(液体)が水蒸気(気体)となって空気中に入っていくことです。しかし、空気が既にたくさんの水蒸気を含んでいる(湿度が高い)と、これ以上水蒸気を受け入れる余地が少なくなっています。そのため、汗はなかなか蒸発することができません。

汗が蒸発しないと何が起こるか?

湿度が高い環境では、汗がスムーズに蒸発しないため、気化熱による冷却効果が十分に得られなくなります。体は体温を下げようと汗をかき続けても、その汗が皮膚の上に溜まったまま乾きにくい状態になります。

汗が蒸発しないまま皮膚の上に留まると、体から熱が効率的に逃げずに、体温が下がりにくくなります。これが、同じ気温でも湿度が高いと、体が暑く感じ、不快な「蒸し暑さ」として体感される科学的な理由なのです。

まとめ

夏の蒸し暑さの正体は、体温調節のためにかいた汗が、空気中の湿度が高いために蒸発しにくくなり、気化熱による冷却効果が得られにくくなることにありました。湿度が高いと、空気中がすでに水蒸気でいっぱいになっているため、汗という新しい水蒸気を受け入れる「すき間」が少なくなる、とイメージすると分かりやすいかもしれません。

蒸し暑い日には、扇風機などで風を当てて汗の蒸発を助けたり、エアコンの除湿機能を使って空気中の水蒸気を取り除いたりすることが、快適に過ごすための有効な手段となります。日々の生活の中で感じる「蒸し暑い」という現象も、体の仕組みと物理現象が組み合わさった、身近な科学のフシギの一つなのですね。