なぜ海は満ち引きするのか?潮汐力の科学
身近な自然現象、潮の満ち引き
海岸や港に行ったとき、海面が一日の中で高くなったり低くなったりするのを見たことがある方は多いでしょう。これが「潮の満ち引き」、あるいは「潮汐(ちょうせき)」と呼ばれる現象です。漁業やマリンレジャー、あるいは船の運航など、私たちの暮らしに深く関わっています。
特定の場所では、海面はおよそ半日の周期で上昇(満潮)し、その後半日で下降(干潮)します。そして、また上昇して満潮を迎えるというサイクルを繰り返しています。なぜ、決まった周期で海面は上がったり下がったりするのでしょうか?この壮大な海の動きの裏には、地球の外、宇宙の力学が隠されています。
月と太陽の引力が鍵を握る
潮の満ち引きの最も大きな原因は、地球が月や太陽から受ける「引力」です。すべての物体は互いに引き合う力を持っています。地球上の海も、月や太陽に引っ張られているのです。
特に、月は太陽に比べてずっと小さいですが、地球からの距離が非常に近いため、その引力の影響が太陽よりもずっと大きいのです。潮汐現象への影響は、月の引力が太陽の約2倍と言われています。
なぜ月とは反対側でも満潮が起こるのか?「潮汐力」のフシギ
月が地球を引っ張ることは理解できますが、なぜ月の方向だけでなく、その真反対の方向でも海面が盛り上がって満潮になるのでしょうか?ここに「潮汐力」という考え方が重要になります。
月の引力は、地球上のすべての場所で同じ強さで働いているわけではありません。月との距離が近い場所ほど強く、遠い場所ほど弱く働きます。地球は球体ですから、月の最も近い側の海面と、地球の中心、そして月の最も遠い側の海面では、月からの距離が異なります。
- 月の最も近い側の海面: 月に最も強く引っ張られるため、月に向かって海面が持ち上げられます。
- 地球の中心: 地球全体が月に引っ張られる際の、平均的な引っ張られ方をする場所と考えられます。
- 月の最も遠い側の海面: 月から最も遠いため、月の引力は弱くなります。
この、月による引力の「場所による差」が「潮汐力」の正体です。地球全体が月に引っ張られている中で、
- 月の最も近い側の海面は、地球の中心よりも強く引っ張られるため、月に向かって盛り上がります。
- 月の最も遠い側の海面は、地球の中心よりも弱くしか引っ張られません。地球の中心が月に引っ張られる速度に対して、遠い側の水はそれほど強く引っ張られないため、相対的に地球の中心から「置いていかれる」ような形になり、地球の中心から見て月に反対側に盛り上がるように見えるのです。
このようにして、地球上の海面は、月の方向とその反対方向の二ヶ所で盛り上がった形(潮汐バルジ)を作ります。ちょうどラグビーボールのような形をイメージすると分かりやすいかもしれません。
地球の自転が満潮と干潮を生む
海面にできたこの二つの盛り上がり(潮汐バルジ)は、月との位置関係によって常に同じ場所にできようとします。しかし、地球は一日一回、自転しています。
地球が自転することで、私たちはこの二つの潮汐バルジの下を順番に通過していくことになります。潮汐バルジの下を通過しているときに海面が高くなり「満潮」、その中間を通過しているときに海面が低くなり「干潮」となるのです。これが一日におよそ2回ずつ満潮と干潮が訪れる理由です。
実際には、地球上の地形や水深、さらには太陽の引力の影響も加わるため、潮の満ち引きの周期や高さは場所によって少しずつ異なりますし、一日で満潮が1回しか起きない場所なども存在します。
太陽の引力と大潮・小潮
太陽の引力も潮汐に影響を与えます。太陽の引力は月よりも強いですが、地球からの距離が非常に遠いため、潮汐力(場所による引力の差)としては月の潮汐力の方が大きくなります。
しかし、月と太陽の引力は互いに影響し合います。
- 大潮(おおしお): 新月や満月の頃、月と太陽が地球から見て同じ方向か、あるいは正反対の方向に一直線に並びます。このとき、月と太陽の潮汐力が合わさるため、満潮と干潮の差が最も大きくなります。
- 小潮(こしお): 上弦の月や下弦の月の頃、月と太陽が地球から見て直角の方向に位置します。このとき、月と太陽の潮汐力が打ち消し合う方向になるため、満潮と干潮の差が最も小さくなります。
まとめ:宇宙の力が織りなす海のリズム
このように、潮の満ち引きは、私たちの身近な自然現象でありながら、遠く離れた月や太陽との間に働く引力、そして地球の自転という宇宙スケールの力が複雑に組み合わさって生まれるフシギな現象です。
海面に隠されたこうした宇宙の法則を知ると、いつもの浜辺の景色も、また違った目で見えるようになるかもしれません。