なぜ土は水を吸うのか?身近な毛細管現象のフシギ
雨上がりの土や植木鉢、なぜ水を吸い上げるのでしょうか?
雨が降った後、地面の土はあっという間に雨水を吸い込んでいきますね。また、植木鉢に水をやるとき、土の表面だけでなく、底から水を吸わせる方法もありますが、これも土が下から水を吸い上げてくれるからできることです。
当たり前のように見えますが、これは水が重力に逆らって、上方向や横方向に移動しているということです。なぜ、土はこんなにもスムーズに水を吸い上げることができるのでしょうか?その背景には、「毛細管現象(もうさいかんげんしょう)」という身近な科学現象が深く関わっています。
土の隙間が「毛細管」になるフシギ
毛細管現象とは、液体が非常に細い管(毛細管)の中を、重力に逆らって上昇したり、逆に下降したりする現象のことです。今回の土が水を吸い上げるケースでは、主に液体が上昇する現象を指します。
では、土のどこに「毛細管」があるのでしょうか?
土は、石や岩が細かく砕けた粒子の集まりです。この粒子と粒子の間には、無数の隙間ができています。そして、この隙間の一つ一つが、ちょうど「毛細管」のような非常に細い管の役割を果たすのです。
水が土の隙間を登っていく原理:凝集力と付着力
水が土の隙間を登っていく毛細管現象の原理は、水分子の二つの性質によって説明できます。
一つ目は、「凝集力(ぎょうしゅうりょく)」です。これは水分子同士が互いに引き合う力のことです。水がまとまってしずくになったり、水面に膜が張ったように見えたりするのは、この凝集力があるからです。
二つ目は、「付着力(ふちゃくりょく)」です。これは水分子が、水以外の固体や液体の表面に引きつけられる力のことです。例えば、コップの壁面に水滴が張り付いたり、ガラスに水が薄く広がったりするのは、水分子とコップやガラスの表面の間で付着力が働いているからです。
毛細管現象では、この「凝集力」と「付着力」が協力して水を運びます。
土の粒子間の細い隙間に水が触れると、まず水分子が土の粒子の表面に「付着力」で引きつけられます。土の表面に張り付いた水分子は、今度はその隣にある他の水分子を「凝集力」で引き上げます。この動きが連鎖的に起こることで、まるで水が手をつないで登っていくかのように、細い隙間の中を水がどんどん上へと吸い上げられていくのです。
隙間が細ければ細いほど、土の表面積に対する水の体積の比率が大きくなり、付着力の影響が強くなります。そのため、毛細管のような細い隙間ほど、水は重力に逆らって高く吸い上げられやすくなります。土の粒子の大きさや隙間の構造によって、水の吸い上げ方が変わるのもこのためです。例えば、粒子の細かい粘土質の土は、砂地の土よりも細い隙間が多く、水を高く吸い上げやすい傾向があります。
身近にある毛細管現象
この毛細管現象は、土の中だけでなく、私たちの身の回りの様々な場所でも見られます。
例えば、ティッシュペーパーの端を水につけると、水がどんどん吸い上げられていく様子。また、布やタオルの繊維の間を水が伝っていくのも同じ原理です。ストローを液体に入れると、ストローの中の液面が周りの液面よりわずかに高くなるのも、ガラスと液体との間の付着力と、液体自身の凝集力による毛細管現象です。
植物が根から吸い上げた水を、重力に逆らって葉っぱの先まで運ぶメカニズムも、この毛細管現象が重要な役割を果たしています(実際には、葉からの蒸散も大きく関わっていますが、植物の道管も毛細管として機能します)。
まとめ
私たちが普段目にしている、土が水を吸い込む当たり前の現象は、水分子同士の引き合う力(凝集力)と、水分子が土の表面に引きつけられる力(付着力)が生み出す「毛細管現象」によって起こっています。
土の中に無数にある細かな隙間が毛細管となり、これらの力がバランスを取りながら、重力に逆らって水を吸い上げているのです。
このように、身近な自然の中にも、水の性質や物質の間の力が生み出す、ちょっとしたフシギな科学が隠されています。雨上がりの土や、植木鉢に水をやる際に、土の中の小さな毛細管で起こっているであろう水の旅に、少し思いを馳せてみるのも面白いかもしれません。