自然のフシギ図鑑

なぜ水に溶けるものと溶けないものがあるのか?溶解の科学

Tags: 溶解, 化学, 水, 分子, 身近な科学

身近な疑問:溶けるものと溶けないもの

私たちの周りには、様々な物質があります。コーヒーに砂糖やミルクを入れると溶けて見えなくなりますし、料理で塩を水に溶かすこともあります。一方で、水と油は混ざり合わずに二層に分かれますし、砂を水に入れても底に沈むだけで溶けません。

このように、「水に溶ける物質」と「水に溶けない物質」があるのはなぜでしょうか。この身近な現象の背景には、物質を構成する小さな粒、分子の性質が深く関わっています。今回は、「溶解」という現象の科学について、分かりやすく解説していきます。

水は特別な溶媒

物質を溶かす液体を「溶媒(ようばい)」、溶かされる物質を「溶質(ようしつ)」、そして溶質が溶媒に溶けた液体全体を「溶液(ようえき)」と呼びます。例えば、砂糖水では水が溶媒、砂糖が溶質、砂糖水が溶液です。

水は、多くの物質を溶かすことができる非常に優れた溶媒です。これは、水を構成する「水分子」の特別な構造と性質によるものです。

水分子(H₂O)は、一つの酸素原子(O)と二つの水素原子(H)からできています。これらの原子は「共有結合」という化学的な結びつきでつながっています。酸素原子は水素原子よりも電子を引き付ける力が強いため、酸素原子の周りにはわずかにマイナスの電荷が偏り、水素原子の周りにはわずかにプラスの電荷が偏ります。

このように、分子全体としては電気的に中性ですが、分子内にプラスとマイナスの電気的な偏りがある分子を「極性分子」と呼びます。水分子は代表的な極性分子であり、例えるなら小さな磁石のような性質を持っています。

溶ける物質はなぜ溶ける?

水に溶ける物質、例えば砂糖や塩も、その多くが電気的な偏りを持っていたり、あるいは水の中で電気的な性質を帯びる性質を持っています。

つまり、水に溶ける物質は、水分子が持つ電気的な偏り(極性)やイオンとの電気的な引力によって、水分子に囲まれて安定化し、大きな塊から個々の分子やイオンとしてバラバラになることができる性質を持っていると言えます。

溶けない物質はなぜ溶けない?

では、油や砂のように水に溶けない物質はどうでしょうか。

「似たもの同士は溶け合う」の法則

これらのことから、「水に溶けるか溶けないか」は、溶媒である水分子の性質と、溶質となる物質の分子やイオンの性質との間の「相性」で決まることがわかります。一般に、「似たもの同士は溶け合う」という経験則があります。

まとめ

私たちの日常生活で見られる「ものが水に溶ける・溶けない」という現象は、水分子の極性という特別な性質と、溶かされる物質の電気的な性質との間の相互作用によって説明できます。水分子が持つ小さな磁石のような性質が、極性を持つ物質やイオンを引き離し、水和することで安定化させる一方、電気的な偏りを持たない無極性物質に対しては、水分子同士の強い結びつきが優先され、溶かすことが難しいのです。

このように、一見当たり前のように見える溶解という現象も、分子の世界を覗いてみると、そこには原子や分子が織りなす巧妙な相互作用が存在していることが分かります。身近な現象に隠された科学のフシギを少しでも感じていただけたら幸いです。