なぜ高い場所で水は低い温度で沸騰するのか?気圧と沸点の科学
なぜ高い場所で水は低い温度で沸騰するのでしょうか?
山に登ったり、標高の高い場所へ旅行に行った際に、カップ麺のお湯を沸かそうとしたら、いつもより早く沸騰したのに、なんだか麺の戻りが悪いと感じた経験はありませんか?あるいは、高い山の上ではご飯が美味しく炊けない、と聞いたことがあるかもしれません。
普段、私たちは「水は100℃で沸騰する」と習いますが、それはあくまで私たちが生活している地上付近、正確には「標準大気圧」と呼ばれる特別な状態での話です。実は、水の沸点は場所や環境によって変化します。特に、標高の高い場所では、水は100℃よりも低い温度で沸騰するのです。
では、なぜ高い場所では水は低い温度で沸騰するのでしょうか?その秘密は「気圧」にあります。
「沸騰」とは何か?沸点と気圧の関係
まず、「沸騰」とはどのような現象でしょうか。水が温められて温度が上がると、液体である水分子はより活発に動き回るようになります。そして、水分子が液体の表面だけでなく、液体の「内部」からも気体(水蒸気)になろうとして、盛んに泡が出てくる状態を「沸騰」と呼びます。そして、この沸騰が始まる温度を「沸点」と言います。
水分子が液体から気体になろうとする力を「蒸気圧」と呼びます。水が沸騰するためには、この蒸気圧が水の外側からかかる圧力、つまり「外圧」に打ち勝つ必要があります。通常、私たちの周りにある水にかかる外圧は、空気の重さによる圧力、すなわち「気圧」です。
高い場所では気圧が低い
さて、地球の空気は重力によって地表に引きつけられています。そのため、高い場所に行けば行くほど、その場所より上にある空気の量が少なくなり、空気の重さも軽くなります。つまり、標高が高くなるほど「気圧は低く」なります。
気圧が低いと沸点も低くなる
高い場所では気圧が低い、ということが分かりました。では、これが沸点とどう関係するのでしょうか。
先ほど述べたように、水が沸騰するためには、水の蒸気圧が外圧(気圧)に打ち勝つ必要があります。もし外圧である気圧が低くなれば、水分子が少ない蒸気圧でも外圧に打ち勝つことができるようになります。水は温度が高くなるほど蒸気圧が大きくなる性質を持っています。気圧が低いということは、水温がそれほど高くなくても、水分子の蒸気圧が十分に大きくなって外圧に打ち勝てるようになる、ということです。
分かりやすく例えるなら、水分子が気体になろうとする力を出すのを、気圧が上から押さえつけているようなイメージです。気圧というフタが重ければ重いほど、水分子はより強い力(高い温度)で押しのける必要がありますが、気圧というフタが軽くなれば、弱い力(低い温度)でもフタを持ち上げて気体になれる、というわけです。
そのため、気圧が低い高い場所では、水は100℃よりも低い温度で沸騰するのです。例えば、標高約3000メートルの富士山頂では、気圧は約0.6気圧となり、水の沸点は約90℃程度になります。
まとめ:気圧と沸点のフシギ
高い場所で水が低い温度で沸騰するのは、標高が高くなるにつれて気圧が低くなるからです。水は、その時の外圧(主に気圧)と水の蒸気圧がつり合った温度で沸騰します。気圧が低いと、より低い温度で水の蒸気圧が気圧に打ち勝つため、沸点が低下するのです。
この現象は、山での調理に影響を与えます。90℃で沸騰したお湯では、100℃で沸騰するお湯よりも熱エネルギーが少ないため、食材に火が通りにくくなります。だからこそ、高い山の上ではご飯が芯のままになったり、麺が硬く仕上がったりすることがあるのです。逆に、圧力鍋のように内部の圧力を高くすれば、沸点を100℃以上に上げることができ、短時間で食材を柔らかく煮込むことが可能になります。
身近な「お湯を沸かす」という行為一つをとっても、そこには気圧と沸点の面白い科学が隠されているのです。