自然のフシギ図鑑

なぜ音が聞こえるのか? 空気中を伝わる波のフシギ

Tags: 音, 振動, 波, 物理学, 聴覚

私たちが日常生活で当たり前のように感じている「音」。鳥のさえずり、車の音、人の話し声など、様々な音が私たちの周りに存在しています。しかし、そもそも「音」とは一体何なのでしょうか? そして、なぜ私たちはその音を聞くことができるのでしょうか?

音の正体は「振動」

結論から言うと、音が聞こえるのは、何かが振動し、その振動が空気を通して私たちの耳まで伝わってくるからです。

音を出すものは、必ず何かしらの形で震えています。例えば、ギターの弦を弾くと弦が震えます。太鼓を叩くと皮が震えます。私たちの声も、喉にある声帯という部分が震えることで生まれています。物が振動すると、その周りの空気が押されたり引かれたりして、空気にも振動が生じます。

空気の振動が「波」として伝わる

この空気の振動は、まるで水面に石を落としたときに波紋が広がるように、次々と周囲の空気に伝わっていきます。空気の粒一つ一つが大きく移動するわけではなく、隣り合った粒が押したり引いたりする動きが連鎖的に伝わっていくイメージです。この振動が空間を伝わっていく現象を「波」と呼びます。音は、このように空気中を伝わる「音波(おんぱ)」という波の一種なのです。

音波は、空気が密になったり薄くなったり(疎になったり)を繰り返しながら進んでいく「縦波(じゅうは)」という波です。風のように空気が流れてくるわけではありません。

音は空気以外のものも伝わる

音波は、空気だけでなく、水や固体の中も伝わることができます。例えば、水中で拍手をすると、その音は水中を伝わります。壁に耳を当てると、隣の部屋の音が聞こえやすいこともあります。これは、壁という固体を音が伝わっているためです。ただし、音が伝わるためには、このような「媒質(ばいしつ)」と呼ばれる物質が必要です。真空の宇宙空間では、音を伝える物質がないため、いくら大きな音を出しても誰にも聞こえません。

耳が音の波をキャッチする仕組み

空気中を波として伝わってきた音波が私たちの耳に届くと、どのようなことが起こるのでしょうか。

耳の穴の奥には、「鼓膜(こまく)」という薄い膜があります。音波が鼓膜に当たると、その空気の振動に合わせて鼓膜も振動します。この鼓膜の振動は、耳小骨(じしょうこつ)と呼ばれる小さな3つの骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)によって増幅され、さらに奥にある「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれるカタツムリのような形をした部分に伝わります。

蝸牛の中はリンパ液で満たされており、音の振動がこのリンパ液に波を起こします。蝸牛の壁には、有毛細胞(ゆうもうさいぼう)という非常に小さな感覚細胞が並んでいて、リンパ液の波によってこの有毛細胞が揺らされます。

有毛細胞が揺れるとその動きが電気信号に変換され、聴神経(ちょうしんけい)を通して脳に送られます。脳は送られてきた電気信号を「音」として認識するのです。音の大きさ(音波の振幅)や高さ(音波の周波数)は、鼓膜の振動の大きさや、蝸牛の中でどの場所の有毛細胞が揺れたかといった情報として脳に伝わり、様々な音を聞き分けることができます。

まとめ

私たちが普段当たり前のように聞いている音は、物が振動して空気の振動(音波)を生み出し、それが波として耳に伝わり、耳の複雑な仕組みを経て脳で認識されるという、一連の物理的・生理的な現象によって成り立っています。

このように、身近な「音」という現象の中にも、波として伝わる物理の法則や、それを捉える生物の精巧な仕組みが隠されているのです。次に何か音を聞いたとき、その音が空気の振動として伝わってくる様子を少し想像してみると、日常がまた違った視点で見えてくるかもしれません。