自然のフシギ図鑑

冬に水道管が破裂しやすいのはなぜ?凍結のフシギ

Tags: 凍結膨張, 水, 物理学, 身近な科学, 冬の現象

冬の寒い朝、蛇口をひねっても水が出ないどころか、水道管から水が噴き出しているのを目にして驚いたという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。なぜ、冬になると水道管が破裂するようなトラブルが起こりやすくなるのでしょうか?

その答えは、水が凍る際に起こるある特別な現象に隠されています。

水が凍るときに起こる「凍結膨張」とは

多くの物質は、温度が下がると体積が小さくなる性質を持っています。液体を冷やして固体にすると、通常は液体よりも体積がわずかに小さくなります。ところが、水はこれとは異なる振る舞いをします。

水は温度が下がって凍り、氷になると、元の液体の状態よりも体積が増えるのです。この、水が凍るときに体積が増加する現象を「凍結膨張(とうけつぼうちょう)」と呼びます。

具体的には、水が0℃で凍って氷になると、その体積は約9%増加します。これは他の多くの物質とは異なる、水が持つ非常に珍しい性質の一つです。

なぜ水は凍ると体積が増えるのか?

水分子(H₂O)は、酸素原子1つと水素原子2つが結びついてできています。液体として存在しているときは、水分子同士は比較的自由に動き回っており、ぎっしりと詰まったような状態に近い構造をとっています。

しかし、温度が下がって水が凍り始めると、水分子は規則正しい結晶構造を作り始めます。このとき、水分子は「水素結合(すいそけつごう)」という弱いながらも重要な結合を互いに作り合い、四方八方に結びついていきます。氷の結晶構造は、この水素結合によってできるのですが、液体状態よりも水分子間の隙間が多く、スカスカした構造になります。

イメージとしては、液体状態は多くの人が密集して立っている状態、氷の状態は各人が手をつなぎ、互いに少し距離を置いて輪を作っている状態に近いかもしれません。同じ人数の集まりでも、手をつないで輪を作ると、全体としてはより広いスペースが必要になります。

このスカスカな結晶構造のために、同じ量の水分子が集まっても、氷になった方が液体だったときよりも大きな体積を占めることになるのです。

凍結膨張の力が水道管を破裂させる

さて、水が凍ると体積が増えるという凍結膨張が、なぜ水道管の破裂につながるのでしょうか。

水道管は、ある程度の強度はありますが、基本的に内部に水が満たされた密閉された空間です。その中で水が凍り始めると、体積が約9%も増加しようとします。行き場を失った氷は、自身の体積を確保しようとして、周囲にあるものをあらゆる方向に強く押し広げようとします。

この時発生する圧力は、非常に大きなものになります。閉鎖された空間で水が凍ることで生じる圧力は、理論上、鉄パイプさえも破壊しうるほどの力に達すると言われています。金属製であれプラスチック製であれ、水道管がこの強力な圧力に耐えきれなくなると、一番弱い部分や接続部分などから破裂してしまうのです。

身近な凍結膨張の例

凍結膨張の力は、水道管の破裂以外にも身近なところで観察できます。

これらの例からもわかるように、水が凍る際に発揮される力は、想像以上に強力なのです。

まとめ

冬に水道管が破裂しやすいのは、水が凍るときに体積が増える「凍結膨張」という、水特有の性質が原因です。密閉された水道管の中で水が凍ると、増加した体積が行き場を失い、周囲に非常に強い圧力をかけます。この圧力が水道管の強度を超えると、破裂事故に至るのです。

冬の凍結防止対策として、水道管に保温材を巻いたり、わずかに水を流し続けたりすることが推奨されるのは、水が凍ることを防ぎ、この強力な凍結膨張の発生を抑えるためなのですね。

身近な冬のトラブルにも、水の持つフシギな性質が関係していることがお分かりいただけたかと思います。自然界には、私たちの想像を超えるような不思議な現象がたくさん隠されています。